Edge-to-Core Continuum(コンティニューム)とは、AIワークロードをエッジデバイスからGPUクラスターまでシームレスにオーケストレーションし、ワークロードのニーズに応じて動的に配置する概念です。
従来のコア中心、クラウド専用のGPUaaSには限界があります。推論における高いレイテンシー(エンドユーザーから中央集中型クラウド地域まで200-500msの往復レイテンシー)、データプライバシーの問題(機密データはローカルに留まる必要がある)、そして高額でしばしば隠れたコスト(アイドル状態のVM、帯域幅のイグジット料金、ストレージ料金)が挙げられます。
なぜEdge-to-Core Continuumが現代AIにとって重要なのか
Edge-to-Core Continuumは、純粋に集中型または純粋にエッジベースのAI展開の重大な限界に対処します。
- 待ち時間の短縮(リアルタイム応答性):
- データソースに近い場所で推論を実行することで、クラウドへの往復レイテンシーが回避されます 。
- これにより、リアルタイムのビジョン、音声、AR、チャットアプリケーション、および重要な産業オートメーションにとって不可欠なミリ秒レベルの応答が可能になります 。
- 適応的なワークロードスケジューリング:
- AIタスクのインテリジェントな分散を可能にします。計算集約型のトレーニングはコアデータセンターで行われ、最適化されたモデルは推論のためにエッジにプッシュされます 。
- 失敗したエッジケースや信頼性の低いエッジケースは、再処理のためにコアに送り返され、堅牢なフィードバックループが形成されます 。
- データプライバシーとコンプライアンスの強化:
- 機密データをオンプレミスまたはローカルリージョン内に保持することで、遠隔のクラウドロケーションへの転送を防ぎます。これは、医療や金融などの規制産業にとって極めて重要です 。
- コスト最適化:
- 推論をエッジデバイスまたは小規模な地域データセンターにオフロードすることで、帯域幅の出口コスト、クラウドコンピューティング料金、データ処理の遅延が削減されます 。
- アイドル状態のVMや不要なデータ転送に関連するコストを最小限に抑えます 。
Edge-to-Core Continuumは、サイロ化されたコンピューティング環境から、レイテンシー、コスト、プライバシー、エネルギーといった多次元的な基準に基づいてAIワークロードの配置を最適化する、流動的でインテリジェントなインフラストラクチャへのパラダイムシフトを表し、新しいビジネスモデルとアプリケーションを解き放ちます。これらの利点は、単なる個別の改善にとどまらず、全体的な最適化を意味します 。例えば、「適応的なワークロードスケジューリング」は、AIタスクがもはや1つの場所に限定されず、リアルタイムの状況に基づいて移行できることを意味します。この柔軟性により、企業は最適なパフォーマンス、コスト効率、コンプライアンスを同時に達成でき、これは連続体が解決しようとしている複雑な多目的最適化問題です。
物理AIの社会実装を加速するEdge-to-Core Continuum
TSVは物理AI対応プロトタイピングワークフロー (Edge-to-Core Continuum)」という独自のAIワークフローを構築し、エッジからコアまでAIワークロードをシームレスに連携・最適化することで、物理AIの社会実装を加速します。このワークフローは、データの流れと処理の段階に応じて、以下の3つの主要なレイヤーで構成されています。
1. エッジレイヤー: 現場でのリアルタイム推論
- 役割: スマートデバイス(センサー、ロボット、IoT機器など)からデータが生成され、現場でリアルタイムな推論を実行します。このレイヤーでは、リアルタイム性、プライバシー保護、通信コスト削減といった要件が特に重要になります。
- 技術: このレイヤーでのアプリケーション開発を支援するための NTY-Midokuraのソリューションエコシステムが提供されます。特に、エッジ仮想化プラットフォーム(EVP)を利用することで、多様なエッジデバイス上でのアプリケーション管理・デプロイが可能になります。また、Edge App SDKを用いてネイティブアプリケーションを開発し、SenseCordを通じてセンサーとのインターフェースを構築します。
2. テストベッドレイヤー: データ処理と中間学習
- 役割: エッジデバイスから収集されたデータを集約・前処理し、ローカルレベルのAIモデルを微調整します。このレイヤーでは、高性能GPUを搭載したAI計算環境テストベッドを活用することで、高度な学習ニーズに対応します。
- 技術: 「AI Factory as a Service (AFaaS)」というサービスモデルを提供し、超分散AIデータセンターへのオンデマンドアクセスと柔軟な開発環境を実現します 。これにより、市場投入までの時間の短縮、運用コストの削減、迅速な反復開発を可能にします。
3. コア / クラウドレイヤー: 大規模モデル学習と基盤AI
- 役割: 集約されたデータを用いて汎用AI(AGI)の基盤モデルを学習させたり、大規模データセットを用いたAIモデルの教育、複雑なデータ分析、広域サービスの展開などを行います。
- 技術: NTY Gridworksが提供する超分散AIデータセンターを活用することで、大規模な分散学習やシミュレーションの効率を飛躍的に向上させることができます。
4. フィードバックループ: 継続的改善の促進
このワークフローの中心には、モデルの継続的改善を促進するフィードバックループが存在します。
- プロセス: コア/クラウドレイヤーで学習された大規模AIモデルは、量子化や軽量化といった最適化を経て、tinyAIモデルとしてエッジデバイスにシームレスにデプロイされます。
- 技術: NTY-Midokuraのソリューションエコシステムは、このプロセスを技術的に支えます 。特に、ミドクラの技術は、AIアプリケーションを多様なエッジ/クラウド環境にシームレスにデプロイできる
- リキッドソフトウェア」の実現を可能にし、大規模モデルをエッジハードウェアで効率的に実行できるように最適化・縮小することで、レイヤー間の互換性を保証します。これにより、AI開発者は多様なプログラミング言語で開発し、複雑な再コンパイルなしにモデルをデプロイできます。
このワークフローは、Edge-to-Core ContinuumがAIモデル改善のための継続的なフィードバックループをどのように促進するかを例示しており、動的な物理環境におけるAIの迅速な適応と展開を可能にします。この「フィードバックループ」は極めて重要です 。これは、連続体が単なる一方通行(データはエッジからコアへ、モデルはコアからエッジへ)ではなく、継続的な学習と洗練の反復プロセスであることを示しています。これは、物理AIにとって特に重要であり、現実世界のデータが常にモデルトレーニングにフィードバックされ、変化する環境への迅速な適応と時間の経過とともにパフォーマンスの向上が可能になります。
NTYとミドクラによるソリューションエコシステム
NTY Gridworksとミドクラのソリューションエコシステムは、AI開発ユーザーが抱えるリソース不足やノウハウ不足といった課題を解決し、国内のHPC・AI開発環境の遅れを解消することを目指しています 。
- NTY Gridworks: AI Factory as a Serviceと超分散AIデータセンターの普及を通じて、持続可能で柔軟なAI開発環境を提供します。
- ミドクラ: NTY Gridworksの戦略提携企業として、エッジ仮想化やAIモデルの軽量化・デプロイといった技術サポートを提供します。
この協業により、TOYAスマートバレーは、分散型HPCインフラの構築、物理AIワークフローの実現、技術支援とコミュニティ形成を通じて、次世代技術開発とトップレベルの人材育成を加速させることを目的としています。
まとめ:ユビキタスAIのための基盤アーキテクチャ
Edge-to-Core Continuumは、ユビキタスでインテリジェントかつ効率的なAIのための基盤アーキテクチャです。多様なコンピューティング環境全体でワークロードをシームレスにオーケストレーションし、WASMやSDNのような技術を活用することで、レイテンシー、プライバシー、コスト、展開の複雑さといった重要な課題に対処します。TSVのこの分野における先駆的な取り組みは、AIが集中型クラウドに限定されず、デジタルランドスケープ全体にインテリジェントに分散され、必要な場所でリアルタイムで状況に応じたインテリジェンスを可能にします。